わづらは)” の例文
さらぬだに燃ゆるばかりなる満開の石榴ざくろに四時過の西日のおびただしく輝けるを、彼はわづらはしと目を移して更に梧桐ごどうすずしき広葉を眺めたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかも靈は恐れも搖ぎもせず、恰もわづらはしい肉體から獨立して、自由に行つたある一つの努力が成功したのを喜ぶかの如くに雀躍こをどりしたのであつた。
ここで、もう一度、小説家のわづらはしい回想を許してやりたいと思ふ。かつて、このあたりではよく人々がき殺された、彼らの生命が安かつたせゐかも知れぬ。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「どうしておれは、己の軽蔑してゐる悪評に、かうわづらはされるのだらう。」
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お峯は心苦こころぐるしがりて、この上は唯警察の手を借らんなどさわぐを、直行は人をわづらはすべき事にはあらずとて聴かず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)