焦慮あせっ)” の例文
私がいくらあなたに利益を与えようと焦慮あせっても、私の射る矢はことごとく空矢あだやになってしまうだけです。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もうどう焦慮あせっても鼓膜こまくこたえはあるまいと思う一刹那いっせつなの前、余はたまらなくなって、われ知らず布団ふとんをすり抜けると共にさらりと障子しょうじけた。途端とたんに自分のひざから下がななめに月の光りを浴びる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
われらはただ二つのっている。そうしてその二つの眼は二つながら、昼夜ちゅうやともに前を望んでいる。そうして足の眼に及ばざるを恨みとして、焦慮あせり焦慮あせって、汗を流したり呼息いきを切らしたりする。