濾過ろか)” の例文
衆智を吸引して本質の中に濾過ろかしていた。また時々、濾過しない衆愚しゅうぐらしい振舞も見せ、本質の個性をむき出して見せる場合もあるにはある。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つの事象が知識になるためにはその事象が一たび生活によって濾過ろかされたということを必要な条件とする。ここに一つの知識があるとする。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それとも一応は理性で濾過ろかして、つまり劉子姉さまといふよびかけと対照させてさう呼ぶことに決めて来たのだらうか。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
この略化されたものにかえって活々いきいきした生命が見られるのは、やはり必要なもののみに圧縮され、濾過ろかされ、「なくてはならぬ一つのもの」となり
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
聖徳太子が法隆寺の建築其他に於て成し遂げられた大陸分子の濾過ろか摂取の妙はまだ十分彫刻に於ては現れていない。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ともかく、江戸時代というものは、悪い時代であったに違いないが、時の濾過ろかを経ると、悪夢は大方消えうせて、美しいもの、良いもの、なつかしいものだけが残る。
同時に多くのイズムは、零砕れいさいの類例が、比較的緻密ちみつな頭脳に濾過ろかされて凝結ぎょうけつした時に取る一種の形である。形といわんよりはむしろ輪廓りんかくである。中味なかみのないものである。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
即ち、科学的智識を濾過ろかし、これを背景として、ロマンチシズムの本領を発揮したのであります。
時代・児童・作品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
刻下の労苦はどこかに押しやられて、濾過ろかされた、花のような思い出だけが浮んでいた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
なにかの濾過ろかや炭素の分解などに使うらしい、よくはわからないが、それで焼きかげんにちょっとくふうがあるんだな、ほおの木がいちばんいいらしい、ぼくは朴の木だけを使ってるんですがね
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また海水のごときは水の円滑な元子の間に塩の粗面的な元子が混合しているが、地下で濾過ろかされれば、水だけが通過すると言っている。これらもおもしろい、一概に笑ってしまわれないところがある。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それを結晶された絵とも呼び得よう。または濾過ろかされた絵とも名づけ得よう。または煮つめられた絵とも言い得よう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
芸術の分野において、時間の強大な濾過ろか装置を経て、後世に残された古典の傑作は常に美しい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)