つや)” の例文
新字:
瀧口が顏愈〻やつれ、頬肉は目立つまでに落ちて眉のみ秀で、凄きほど色蒼白あをみてこまやかなる雙の鬢のみぞ、愈〻其のつやを増しける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
朝の光が涼しい風と共に流れ込んで、髮亂れ、眼凹み、皮膚のつやなく弛んだ智惠子の顏が、もう一週間も其餘も病んでゐたものゝ樣に見えた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「たいへん、寒い……」と、てれ隱すやうに日本語を呟いて、女は硬張こはばつた作り笑ひをそのつやのない顏に浮べた。
ハルピンの一夜 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
好き葡萄酒一瓶あれば、そをたてまつらんといふ。我は今いかなる事を答へしか知らず。されどその詞と共に一間に入り來りしは彼少女なり。いかなる形ぞ。いかなる色ぞ。髮はうるしの黒さにてしかもつやあり。
其聲は、恰も地震の間際に聞えるゴウと云ふ地鳴ぢなりに似て、低い、つやのない聲ではあつたが、恐ろしい力が籠つて居た。女は眼を圓くして渠を仰いだが、何とも云はぬ。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
頷いて、薄暗い明りの下ながら、私はその刹那に初めて女の顏を眞面まともに見詰めた。赤茶けた、つやのない、ばさばさ髪、高い頬骨、肩掛をはづした女の顏は見違へる程痩せてゐた。
ハルピンの一夜 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)