温暖あたゝか)” の例文
御茶漬すぎ(昼飯後)は殊更温暖あたゝかく、日の光が裏庭の葱畠ねぎばたけから南瓜かぼちやを乾し並べた縁側へ射し込んで、いかにも長閑のどかな思をさせる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
明後日が初酉の十一月八日、今年は稍温暖あたゝかく小袖を三枚みツつ重襲かさねる程にもないが、夜が深けては流石に初冬の寒気さむさが感じられる。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ある温暖あたゝか五月雨さみだれのじと/\降る日の暮方、彼が社から歸つて傘をすぼめて共同門を潜ると、最近向うから折れて出て仲直りした煎餅屋の内儀かみさんが窓際で千登世と立話をしてゐたが
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
温暖あたゝかな日光が馬車の中へ射込んで來た。吾儕は爭つて風除の布を揚げた。それほど激しく日光に渇いて居た。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
温暖あたゝかい日の下に産れて忍耐の力に乏しい南国の人なぞは、到底ういふ山の上の牧夫に適しないのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こゝの女中も矢張内儀さんと同じやうに、丁寧な、優しい口の利きやうをして、吾儕の爲に温暖あたゝかい、心地こゝろもちの好い寢床とこを延べて呉れた。吾儕は皆な疲れて横に成つた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
随つて斯の村で弁護士の政論を聞くことは出来ないが、そのかはり蓮太郎は丑松とゆつくり話せる。まあ、斯ういふ信濃の山の上で、温暖あたゝかな小春の半日を語り暮したいとのことである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)