渡渉としょう)” の例文
軍日誌によると、一ノ宮、大垣、垂井の間をほとんど四日たらずで行軍しており、あげくに墨股すのまたでは、むりな雨中渡渉としょうまでおこなっている。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貨物自動車やタキシーをつかまえて無理に乗せて貰ったり、乗物のかない所は歩いたり渡渉としょうしたりして来たと云うことで、食料品を入れたリュックサックを背負い
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その蜿蜒えんえんたる黒い流れは、千曲川の水幅よりも広く長いかと思われた。そして夜半ごろ、先鋒の一部はすでに千曲の支流、広瀬のあたりを渡渉としょうしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵はばいをふくみ、馬はくちばくし、月下、山をくだって、千曲川の渡渉としょうにかかったころ、漸く、月は没していた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
河幅は怖ろしく広かったが、水は渡渉としょうできる程だった。数日、残暑の汗によごれた肌着など洗う兵もあり、魚をって、かがりで焼いて喰っている仲間もある。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川幅はかなりありますが、水は浅く、すそをくくり上げてジャブジャブと渡渉としょうするには手頃な流れです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、そうした往復に、日を過しているいとまもなかった。すでに織田軍の大兵は、木曾川の渡渉としょうを開始し、斎藤家の軍勢とのあいだに、猛烈な河中戦が捲き起されていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上流と下流、ふた手から渡渉としょうにかかった。単騎で渉るのとちがって、備えも要る、時間もかかる。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて江田行義、篠塚伊賀守、綿打わたうち入道にゅうどう義昭ぎしょうらの三隊が、川へ先陣を切ってゆくと、がぜん、対岸から猛烈な弓鳴ゆなりがおこった。およそ相手が渡渉としょうして来そうな浅瀬は敵もよく見ていたのである。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅瀬を渡渉としょうし、山崎、戸部の方面へ出て行くか、陸地を迂回うかいして知多の上野街道から井戸田いどだ、古鳴海へさして行くか、行軍の疑問が起ったのと——同時にはるか、鷲津、丸根の方角と思しき彼方に
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、いつでも桂川を渡渉としょうする陣容は成っていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)