淡色うすいろ)” の例文
夏なので、白絹すずしにちかい淡色うすいろうちぎに、羅衣うすものの襲ね色を袖や襟にのぞかせ、長やかな黒髪は、その人の身丈ほどもあるかとさえ思われた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薄明うすあかりのデリケートな銀色の月のように、美くしい明るい灰色の彼の衣裳を淡色うすいろやまたは豊かな影に替えて、彼は日に六度しかも着物を替えた。
ある朝新吉が、帳場で帳面を調べていると、店先へ淡色うすいろ吾妻あずまコートを着た銀杏返いちょうがえしの女が一人、腕車くるまでやって来た。それが小野の内儀さんのお国であった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
岩の間には淡色うすいろな撫子や、しをらしい濃紫の桔梗が咲いて居り、磯を離れて半丁ばかりのところに、屏風のやうに屹立した斷崖の上には、もう秋の口らしい蜩が鳴いてゐた。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
すらりとした長身で、ぬけるように肌が白く、上気して、頬が巴旦杏はたんきょうの色に赧らんでいる。真鍮しんちゅう色の眉の下に、液体の中で泳いでいるかと思うような、睫毛まつげの長い淡色うすいろの美しい眼がある。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
秋が深くなったこのごろの風のが身にしむのを感じる、そうしたある夜明けに、白菊が淡色うすいろを染めだした花の枝に、青がかった灰色の紙に書いた手紙を付けて、置いて行った使いがあった。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
淡色うすいろの牡丹今日ちる時とせず厄日やくびと泣きぬひがむ人
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
続いて降りたのが、丸髷頭まるまげあたまの短い首を据えて、何やら淡色うすいろの紋附を着た和泉屋の内儀かみさんであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なんというりっぱな姿であろうと見えたが、六条の大臣は桜の色の支那錦しなにしき直衣のうしの下に淡色うすいろ小袖こそでを幾つも重ねたくつろいだ姿でいて、これはこの上の端麗なものはないと思われるのであった。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
淡色うすいろの制服まがいの服に着換え、両腕をむきだして出てきたが、エプロンの肩の蝶結びのところを指でチョイチョイつまみながら、健康そうな横顔を見せ、賢夫人と立ち話をしているところなどは
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
山から取って来てその水にけてある淡色うすいろの夏雪草などを眺めながら、笹村は筋肉のふやけきったような体を湯に浸していた。湯気で曇った硝子窓には、庭の立ち木の影が淡碧うすあおく映っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)