泣面べそ)” の例文
春日に金を渡すとき庸三は泣面べそをかいていたが、しかしまた一面には今まで立ち迷っていた雲の割れ目から青い空が見えて来たような感じでもあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
乳母 こちのも其通そのとほりに平伏へたばって、泣面べそかいて、哭立なきたてゝぢゃ。たッしゃれ/\。をとこならたッしゃりませ。ひめためぢゃ、ヂュリエットどののためぢゃ、きさッしゃれ、たしませ。
「勿論、あまもなに泣面べそかないで一昨日おとといった。」と煙管きせるをこつこつ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤ん坊は眠り足らず、銀子のひざ泣面べそをかき、ぐずぐず鼻を鳴らし口をゆがめているので、銀子も面白く、どの赤ん坊もこうだったと、思い出すのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さくのなかの猿のように、肉の落ちた頬をもがもがさせて、泣面べそをかくほどに食欲が恢復かいふくして来たのは、院長からやっと二粒三粒の米があってもさしつかえのないおかゆや、ウエーファ、卵の黄味の半熟
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お作は、泣面べそかきそうな顔をして、術なげにうつむいてしまう。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
老人のようなしわを目のあたりによせて、赤子は泣面べそをかいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
汽車の窓から、弟は姉の方へ手を拡げては泣面べそをかいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)