河岸縁かしぶち)” の例文
そしてそこの河岸縁かしぶちで眼前に描き出す彼女の姿は、図書館の中に落ちてる光の角壔だった。ただ、太陽の光のではなく、一種の燐光の……。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
何か胸をかすめたものがあるように、お蝶は立ち止まって、小間物屋の奥を覗きましたが、そこを小刻みに通り抜けると、人影のない河岸縁かしぶちへ出て
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汐溜しおどめから出て三十間堀さんじっけんぼりの堀割を通って来る小さな石油の蒸汽船、もしくは、南八丁堀みなみはっちょうぼり河岸縁かしぶち
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また、ついさいぜんまで、河岸縁かしぶちへ車が曲がるまでは、あの女は確かに車内にいた。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いて行くと、お角はお厩河岸うまやがしを五、六ちょうほど下って、鳥越川が大川にそそぎ出る丁字形ていじがた河岸縁かしぶちに立ちどまりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水門すいもん忍返しのびがえしから老木おいきの松が水の上に枝をのばした庭構え、燈影ほかげしずかな料理屋の二階から芸者げいしゃの歌ううたが聞える。月が出る。倉庫の屋根のかげになって、片側は真暗まっくら河岸縁かしぶち新内しんないのながしが通る。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)