しみ)” の例文
そして、それと対照的に、ついさっき塗られたばかりらしいルージュの深紅と血潮とが、ぼーっと明るむたびに、火のように眼にしみるのだ。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
くろずんだ土や、蒼々あおあおした水や広々した雑木林——関東平野を北へ北へとよこぎって行く汽車が、山へさしかかるに連れて、お島の心には、旅の哀愁が少しずつしみひろがって来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
下は白い砂を敷いた様な清潔な道が両へきいはから自然にしみ出る水があるのか少し湿つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
この時かかる目的の為に外面そといでながら、外面に出て二歩三歩ふたあしみあしあるいて暫時しばし佇立たたずんだ時この寥々りょうりょうとして静粛かつ荘厳なる秋の夜の光景が身の毛もよだつまでに眼にしみこんだことである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
フト気がついてみると、次第に酔はめて来たらしく、思わず、ぶるぶるッとする寒さが、身にしみて来た。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そんな事を考えた観衆の胸には、次の瞬間への、死のような緊張が、寒む寒むと、しみ渡った。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)