款冬ふき)” の例文
梅干を使わない時はものこしらえるとか百合のない時には款冬ふきとうとかあゆのウルカとか必ず苦味と酸味を膳の上に欠かないのが五味の調和だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
空山に款冬ふきの緑が点々たるところ、ふと早春のような錯覚さえおぼえるほど、なごやかな景色であった。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
わが庭広からず然れども屋後おくごなほ数歩の菜圃さいほあまさしむ。款冬ふきせりたでねぎいちご薑荷しょうが独活うど、芋、百合、紫蘇しそ山椒さんしょ枸杞くこたぐい時に従つて皆厨房ちゅうぼうりょうとなすに足る。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
印象派の絵画に見るような色彩の凹凸が、鮮明に流動している、私はそれに見惚みとれていたが、ふと足許を見ると、大きな款冬ふきの濶葉のおもてが、方々に喰い取られたような、穴を明けられ
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
川の水が子守歌のように、高くなり、低くなって、私たちの足音を消して、後から追い冠せて来るときには、一行はまた、森の中の人となっていた。森の中には款冬ふきの濶葉が傘のように高い。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)