橿原かしわばら)” の例文
またこの橿原かしわばらというんですか、山のすそがすくすく出張でばって、大きな怪物ばけものの土地の神が海の方へ向って、天地に開いた口の、奥歯へ苗代田なわしろだ麦畠むぎばたけなどを、引銜ひっくわえた形に見えます。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橿原かしわばらの奥深く、あがるように低くかすみの立つあたり、背中合せが停車場ステイションで、その腹へ笛太鼓ふえたいこの、異様に響くめた。其処そこへ、遥かにひとみかよわせ、しばらく茫然ぼうぜんとした風情ふぜいであった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言いかけて身体からだごと、この巌殿いわどから橿原かしわばらへ出口の方へ振向いた。身の挙動こなし仰山ぎょうさんで、さも用ありげな素振そぶりだったので、散策子もおなじくそなたを。……帰途かえるさかれにはあたかも前途ゆくてに当る。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)