標致きりょう)” の例文
もう年が年でもあるし、小柄な、痩せた、標致きりょうも、よくない女であったが、あゝ、それを思うと、一層みじめなような気がする。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
もっとも、十八九はたちごろから、時々見た顔ですから、男弟子に向っては、澄ましていたのかも知れません。薄手で寂しい、眉のりんとした瓜核顔うりざねがおの……標致きりょう
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は黙ってお宮の言うのを聞きながら、そっと其の姿態ようすを見まもって、成程段々聞いていれば、何うも賢い女だ。標致きりょうだって、他人ひとには何うだか、自分にはまず気に入った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
松井の女あるじの今なお一見、二、三十年前この土地で全盛をうたわれたことをしのばしめるに反して、お繁婆さんの方は標致きりょうもわるく、見るから花車婆やりてばあさんのような顔をしていた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
目に立つほどの標致きりょうをおもいなしにか妙にすすけたようによごしている。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「……万里泊舟天草灘ばんりふねをはくすあまくさのなだ……」と唯口のさきだけ声を出して、大きく動かしている下腮したあごの骨が厭に角張って突き出ている。斯うして見れば年も三つ四つ老けて案外、そう標致きりょうも好くないなあ! と思った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)