柔和やさし)” の例文
外所そとは豆腐屋の売声高く夕暮近い往来の気勢けはい。とてもこの様子ではと自分は急に起て帰ろうとすると、母は柔和やさしい声で
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
貴郎あなたのやうな柔和やさしいお心を持つことが出来ませう——其れにけても理も非もなく山木さんの言ふなり放題になさる、牧師さんや執事さん方の御心が
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
瓜核顔うりざねがおの、鼻の準縄じんじょうな、目の柔和やさしい、心ばかり面窶おもやつれがして、黒髪の多いのも、世帯を知ったようで奥床しい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黙って居られてはわからない、我の云うのが不道理か、それとも不足で腹立ててか、と義には強くて情には弱く意地も立つれば親切も飽くまでとおす江戸ッ子腹の、源太は柔和やさしく問いかくれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「性質が柔和やさしいんですよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「僕はね、若し彼女あのおんながおしょうさんのように柔和やさしい人であったら、こんな不幸な男にはならなかったと思います。」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのおくれげを掻いた時、壁の中のおもかげは、どんなに、美しかったろう、柔和やさしく気高かったろう。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と義には強くて情には弱く意地も立つれば親切も飽くまで徹す江戸ッ子腹の、源太は柔和やさしく問ひかくれば、聞居るお浪は嬉しさの骨身に浸みて、親方様あゝ有り難うござりますると口には出さねど
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かすかに覚えているところでは父は柔和やさしかたで、荒々しく母や自分などをしかったことはなかった。母に叱られて柱にしばりつけられたのを父が解てくれたことを覚えている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)