杣人そまびと)” の例文
それほど、その二人の男には密林の形容が具わってきて、朴訥ぼくとつな信心深い杣人そまびとのような偉観が、すでに動かしがたいものとなってしまった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この地方の遠いいにしえは山にたよって樵務きこりを業とする杣人そまびと、切り畑焼き畑を開いてひえ蕎麦そば等の雑穀を植える山賤やまがつ、あるいは馬を山林に放牧する人たちなぞが
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わがくににも諸職各々忌詞いみことばあって、『北越雪譜ほくえつせっぷ』に杣人そまびとや猟師が熊狼から女根まで決して本名をとなえぬ例を挙げ
時ならぬ時、笛や太鼓の物の音が、里人や、猟師、杣人そまびとを驚かしつづけたことを。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おおむね、猟師とか、岩魚いわな釣りとか、杣人そまびとの類か、または、かつて陸地測量部の人夫として働いた事があるというような人を、辛うじて探し出して、頼むべき伴侶とする外はなかったのである。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
信州木曾辺はことにこれを説く者が多い。出羽の荘内の山中でも杣人そまびとがこれを拾ってきて、小屋の入口の柱につるして置くと、夜のうちに持って還ったか、見えなくなったなどといっている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
主従ここで討死をした、姫は父を失い、母にはぐれ、山路に行き暮れて、悩んでいるのを、通りがかりの杣人そまびとが案内を承るといつわり、姫を檜にいましめ、路銀を奪って去った、ややありて姫は縛を解き
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
杣人そまびとか猟人などではないのか」
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さて杣人そまびと一日山に入りて儲けなく、ちょっと入りて大儲けする事もあればこれも魔物なり。