旅垢たびあか)” の例文
不審そうにいう彼の眼の前に、旅垢たびあかにまみれた夢想権之助とお杉ばばとは、浜砂の中に埋まるように坐って、手をつかえていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、解するや否や、ここへ来てはよけい旅垢たびあかの眼だつ武芸者は、なお、黙然たるままあるじの気はいを待つこと久しい。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長の旅垢たびあかほこりにまみれた人馬は、三条河原の空地にひと先ずたむろをして、ここで一こう何十人の商人あきんどが、各〻の荷物を分け合い、道中の費用の頭割り勘定やら
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二十歳ばかりのその冠者は、旅垢たびあかにまみれた狩衣かりぎぬの下に、具足を着こんでいた。背は五尺一、二寸ぐらいしかあるまい。肩幅もきゃしゃであるし、総じて小がらな若者だった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すその短い、白木綿の着もの一枚に、くびや手足も旅垢たびあかにまみれ、泊るに銭もなく、飢えて川辺の舟に寝ていたらしいが、手下の者が揺り起すと怖ろしく気のつよい大言を放ったので
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真っ黒な旅垢たびあかの下にかくれている、鶏血石けいけつせきのような鮮紅せんこうを持っている日吉の耳だの、若いくせに、一見、老人みたいに見えるひたいしわに、後年の大器がすでにあらわれていたことをも見出して
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
針売りすがたの木綿布子もめんぬのこ一枚、それも旅垢たびあかに臭いほど汚れたのを着て幾日も飯を喰べないような空腹すきばらをかかえ、飯を与えるとがつがつとはしを鳴らして喰べながら、何か夢みたいなことを訴えていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)