放棄うつちや)” の例文
佐治に、発送の手伝ひをすると約束をして置いたのだがと、それが一番重大な気がかりでもあつたやうに、思ひ出すと放棄うつちやつては置けないやうな気になつた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
二人は卓子の上に放棄うつちやらかしてあつた碁盤を引き寄せて、たわいの無い遊戯を始めた。恰度我々外勤の者は手が透いて、編輯机の上だけが急がしい締切時間間際だつた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
すぐつたわらなはべつつてきながらたゞせはしくて放棄うつちやつてつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたくしは白井と木場とがまた悪戯いたづらを初めたなと思ふと共に、このまゝ放棄うつちやつて置いたら、今にどんなだいそれた事をしでかすかも知れないと、いよ/\恐怖の念を深くするに至つたのである。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かと云つて俺は俺の貴い霊魂をこれ以上に自ら侮蔑し傷け堕落させる事は出来ない、剰へ俺の肉体を血まみれに刺し貫いて俺自ら陋しい賤民の死体のやうに大道の真中に放棄うつちやり放す訳にはゆかない。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)