掻退かきの)” の例文
耳のはたで叫んで、——前刻さっきから橋の際に腰を板に附いてしゃがんでいた、土方体の大男の、電車も橋も掻退かきのけるがごとく、両手を振って駆出したのがある。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
久々の逢瀬おうせに語りつきせぬ其のを明しまして、一日二日と過ぎます内にはや三月の花見時、向島の引ける頃、混雑の人を掻退かきのけ/\一人の婦人が立花屋へ駈付けてまいりまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其処そこは塗料の腐る匂いで息が詰りそうである——然し伊藤次郎は、懐中電灯を差しつけながら、散らばっている船具や板片いたきれ掻退かきの蹴飛けとばし、塵も見逃すまじと船底の鉄板をしらべ廻った。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)