戸々ここ)” の例文
今日ではこのアアチの下をば無用の空地くうちにして置くだけの余裕がなくって、戸々ここ勝手かってにこれを改造しあるいは破壊してしまった。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なにしろ戸々ここで思い思いに掃き立てるのであるから、その都度つどに近所となりの迷惑は思いやられるが、お互いのこととあきらめて別に苦情もなかったらしい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今豊臣のまつりごと久しからずとも、万民ばんみん一五三にぎははしく、戸々ここ一五四千秋楽をうたはん事ちかきにあり。君がのぞみにまかすべしとて八字の句をうたふ。そのことばにいはく
戸々ここに立ち働いている黒い影は地獄の兵卒のごとく、——戸々の店さきに一様に黒く並んでるかな物、荒物、野菜などは鬼の持ち物、喰い物のごとく、——僕はいつの間に墓場
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
ゆったりとおちついたうちにも、村内そんない戸々ここのけはいは、おのがじしものせわしきありさまに見える。あす二十二日がこの村の鎮守祭礼ちんじゅさいれいの日で、今夕こんゆうはその宵祭よいまつりであるからであろう。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)