憂愁うれい)” の例文
今日は十一月四日、打続いての快晴で空は余残なごりなく晴渡ッてはいるが、憂愁うれいある身の心は曇る。文三は朝から一室ひとま垂籠たれこめて、独り屈托くったくこうべましていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と答えるお種の顔には憂愁うれいの色が有った。それを彼女は苦笑にがわらいまぎらわそうともしていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
千代子の苦悩は年ごろの処女が嫁入り前に悲しむという、その深き憂愁うれいであろうか。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
根がわざとせし偽飾いつわりなればかえって笑いの尻声が憂愁うれいの響きを遺して去る光景ありさまの悲しげなるところへ、十兵衛殿お宅か、と押柄おうへいに大人びた口ききながらはいり来る小坊主、高慢にちょこんと上り込み
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
病気しても人一倍食うという宗蔵の憂愁うれいを遣るものは、僅かにこの和歌である。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)