愛寵あいちょう)” の例文
院の皇子方は、父帝がどれほど御愛寵あいちょうなされたおきさきであったかを、現状のお気の毒さに比べて考えては皆暗然としておいでになった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
愛寵あいちょう比なき夫人の兄たる弐師じし将軍にしてからが兵力不足のためいったん、大宛だいえんから引揚げようとして帝の逆鱗げきりんにふれ、玉門関ぎょくもんかんをとじられてしまった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
鎌倉殿は、船中において嚇怒かくどした。愛寵あいちょうせる女優のために群集の無礼を憤ったのかと思うと、——そうではない。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武蔵が後に特別な愛寵あいちょうをうけた本多家などからは、武蔵の門人もあったのに何らの材料もまだ出ていないし、黒田、小笠原、有馬などの書庫も未開なので
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どの天皇様の御代みよであったか、女御にょごとか更衣こういとかいわれる後宮こうきゅうがおおぜいいた中に、最上の貴族出身ではないが深い御愛寵あいちょうを得ている人があった。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
鎌倉殿かまくらどのは、船中に於て嚇怒かくどした。愛寵あいちょうせる女優のために群集の無礼をいきどおつたのかと思ふと、——うではない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
帝の御愛寵あいちょうを裏切って情人を持った点をお憎みになったのであるが、赦免の宣旨せんじが出て宮中へまたはいることになっても、尚侍の心は源氏の恋しさに満たされていた。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、仰せがあってかおるがまいった。実際源中納言はこうした特別な御愛寵あいちょうによって召される人らしく、遠くからもにおう芳香をはじめとして、高い価値のある風采ふうさいを持っていた。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
若くいらせられる東宮ではあるがこの人を最も御愛寵あいちょうあそばされた。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「それではおかみへ済まないことになる。宮仕えは多数のうちで、ただ少しの御愛寵あいちょうの差を競うのに意義があるのだ。貴族がたのりっぱな姫君がお出にならないではこちらも張り合いのないことになる」
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)