悪疫あくえき)” の例文
過ぐる日の上巳じょうしの祝節。わが仁宗皇帝におかれては、打ちつづく世の悪疫あくえきを聞こしめされ、いたく宸襟しんきんをなやませ給うた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪疫あくえき版図はんとは五十村に渡った。疱瘡ほうそうのように細かな腫物はれものが全身に吹き出ると、焼けるように身体が燃えて、始めは赤くなった。ついには黒くなって死ぬといった。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さりとは知らず飛んだ失礼、どうぞご容赦くださいますよう——中津川城下の悪疫あくえきをわずかの間に身をもって払った神変奇特の霊業かみわざは先般より承知致してござった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今年は暑気が強く、悪疫あくえきが流行する。これを予防するには、家ごとに赤飯をいて食えと言い出した者がある。それが相当に行われて、俄かに赤飯を炊いて疫病やくびょうよけをする家が少くないという。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
がしだいしだいに——ごくゆっくりと——言いようのない嫌悪の情をもってその猫を見るようになり、悪疫あくえき息吹いぶきから逃げるように、そのむべき存在から無言のままで逃げ出すようになった。
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
ここ数年、五こくのみのりも思わしくありません。加うるに、この春は、天下に悪疫あくえきが流行し、江南江北も、東西二京も、病臭びょうしゅうに埋まっております。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
張角は、門を閉ざし、道衣どういを着て、潔斎けっさいをし、常に南華老仙の書を帯びて、昼夜行いすましていたが、或る年悪疫あくえきが流行して、村にも毎日おびただしい死人が出たので
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣中の悪疫あくえきと食糧難の二つが彼を待っておる。それに反して、寡兵かへいなりといえ、われは山上の涼地に籠り、鉄壁の険に加うるに、南は大江をひかえ、北は峩々ががたる山険を負う。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)