恍然こうぜん)” の例文
さながら人間の皮肉を脱し羽化うかして広寒宮裏こうかんきゅうりに遊ぶ如く、蓬莱ほうらい三山ほかに尋ぬるを用いず、恍然こうぜん自失して物と我とを忘れしが
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
そのうちにアラユル妄想や、雑念が水晶のようにり沈み、神気が青空のように澄み渡って、いつ知らず聖賢の心境に瞑合めいごうし、恍然こうぜんとして是非を忘れるというのです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
貫一はこの絵をる如き清穏せいおんの風景にひて、かの途上みちすがらけはしいはほさかしき流との為に幾度いくたびこん飛び肉銷にくしようして、をさむるかた無く掻乱かきみだされし胸の内は靄然あいぜんとしてとみやはらぎ、恍然こうぜんとしてすべて忘れたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
独り船窓に倚って、恍然こうぜんと、外の水や空を見ていた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)