快豁かいかつ)” の例文
この天眼通てんがんつうに苦笑を禁じ得なかった津田は、それぎり会話を切り上げようとしたところ、快豁かいかつな爺さんの方でなかなか彼を放さなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時の快豁かいかつな気もちは、何ものをもってするも比すべきものがなかった。諸君、解脱げだつは苦痛である。しかして最大愉快である。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
幽霊塔と世人から薄気味悪く思われた屋敷が斯くも快豁かいかつな宴会の場所と為り又此の後の余等の住居になるかと思えば何とやら不思議な国へ住居する様な心地がしてただ物新しい感じがする
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
で、今夜は少ししゃくも手伝って、飲みたくもない麦酒ビールをわざとポンポン抜いて、できるだけ快豁かいかつな気分を自分といざなって見た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しばらくしてから彼は今までの快豁かいかつな調子を急に失った。そうして何か秘密でも打ち明けるような具合に声を落した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神経質な叔父の態度は、先刻の失敗を取り戻す意味を帯びているので、平生よりは一層快豁かいかつであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「君東京にいた時よりよほど快豁かいかつになったようですね。血色も大変好い。結構だ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敬太郎はまた例のはかま穿きながら、今度こそ様子が好さそうだと思った。それからこの間買ったばかりの中折なかおれを帽子掛から取ると、未来に富んだ顔に生気をみなぎらして快豁かいかつに表へ出た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)