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忙々
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いそがはし
遂に彼はこの
苦を両親に訴へしにやあらん、
一日母と娘とは
遽に身支度して、
忙々く車に乗りて出でぬ。彼等は
小からぬ
一個の
旅鞄を携へたり。
呼べど
号べど、宮は返らず、老婢は居らず、貫一は
阿修羅の如く
憤りて起ちしが、又
仆れぬ。仆れしを漸く
起回りて、
忙々く
四下を
眴せど、はや宮の影は在らず。
彼等は幕の開かぬ芝居に会へる想して、
余に落着の
蛇尾振はざるを悔みて、はや
忙々き
踵を
回すも多かりけれど、又
見栄あるこの場の模様に
名残を惜みつつ去り
敢へぬもありけり。