得為えせ)” の例文
あやまちて野中の古井ふるゐに落ちたる人の、沈みも果てず、あがりも得為えせず、命の綱とあやふくも取縋とりすがりたる草の根を、ねずみきたりてむにふと云へる比喩たとへ最能いとよく似たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
然し彼は徹頭徹尾てっとうてつび単純にしていつわることを得為えせぬ男で、且如何なる場合にも見且感ずるを得る自然の芸術家であったことを忘れてはならぬ。余は寄生木によって、乃木大将夫妻をヨリ近く識り得た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
貫一は猛獣などを撃ちたるやうに、彼の身動も得為えせ弱々よわよわたふれたるを、なほ憎さげに見遣みやりつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
たかへる小鳥の如く身動みうごき得為えせで押付けられたる貫一を、風早はさすがに憫然あはれと見遣りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)