引返ひつかえ)” の例文
要次郎は不意の恐れに前後の考へをうしなつて、今までしつかりと握りしめてゐたおせきの手を振放して、半分は夢中で柴井町の方へ引返ひつかえして逃げた。
しばらくして小提灯こぢようちん火影ほかげあかきが坂下より急ぎのぼりて彼方かなたに走るを見つ。ほどなく引返ひつかえしてわがひそみたるやしろの前に近づきし時は、一人ならず二人三人ふたりみたり連立つれだちてきたりし感あり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
色彩あり光沢こうたくある虫は毒なりと、姉上の教へたるをふと思ひでたれば、打置うちおきてすごすごと引返ひつかえせしが、足許あしもとにさきの石のふたツにくだけて落ちたるよりにわかに心動き、拾ひあげて取つて返し
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)