建仁寺垣けんにんじがき)” の例文
彼は、——僕はいまだに覚えている。彼はただ道に沿うた建仁寺垣けんにんじがきに指をれながら、こんなことを僕に言っただけだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
垣内は文字通り、垣で囲った土地の区劃ということだったにしても、それが今日の生籬いけがき建仁寺垣けんにんじがきのごとき、労費のかかったものであった気づかいはない。
垣内の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
狹い庭にも夏らしい緑が茂つて、隣との間に、型ばかりの四尺ほどの建仁寺垣けんにんじがきがあり、それに外から、六七尺ほどの、小さい植木梯子を掛けてあるのが氣になります。
どうも今の人が柳浪先生らしき気がしてならぬ故そつと建仁寺垣けんにんじがきれ目より庭越しに内の様子を窺へば、残暑なほ去りやらぬ九月の夕暮とて障子しょうじけ放ちし座敷の縁先えんさき
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
庭はほとんど何も植わっていない平庭で、前面の建仁寺垣けんにんじがきの向こう側には畑地があった。垣にからんだ朝顔のつるが冬になってもやっぱりがらがらになって残っていたようである。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その広い庭の中を通りがかりに、建仁寺垣けんにんじがきのすきからひょいとみると、人影がある。
路傍の建仁寺垣けんにんじがきが新に結い替えられた時などは、実際目のさめるような感じがする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「何分ここまでは目が届かないものですから。」と女中は乗り越した垣根からこっちへ降りる足場などについて説明していたが、竹の朽ちた建仁寺垣けんにんじがきに、そんな形跡も認められなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
狭い庭にも夏らしい緑が茂って、隣との間に、型ばかりの四尺ほどの建仁寺垣けんにんじがきがあり、それに外から、六七尺ほどの、小さい植木梯子を掛けてあるのが気になります。
彼は窓外まどそとを呼び過ぎる物売りの声と、遠い大通りに轟き渡る車の響と、厠の向うの腐りかけた建仁寺垣けんにんじがきを越して、隣りのうちから聞え出すはたきの音をば何というわけもなく悲しく聞きなす。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今までひろびろしていた堀端の眺望からにわかに変る道幅の狭さに、鼻のつかえるような気がするばかりか、両側ともに屋並やなみそろわない小家つづき、その間には潜門くぐりもん生垣いけがき建仁寺垣けんにんじがきなどもまじっているが
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)