廡下ぶか)” の例文
朝睛堂相法の如き支那傳來以外に實驗體得を基礎として他人の廡下ぶかに依らぬ書に至るまで、いづれも氣を説かぬものは無いのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
生を微賤の家にけしにも因るべく、最初に受けし教育にも因るべく、又恆に人の廡下ぶかに倚る境遇にも因るなるべし。
しかしそれは五百をらぬのであった。五百は人の廡下ぶかることを甘んずる女ではなかった。渋江一家の生計は縮小しなくてはならぬこと勿論もちろんである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
城隍が廡下ぶかに一夜を明かした書生の運勢を開いてやると、判官は町中を荒し廻った泥坊を驚死させてしまう。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
天地の間に生物せいぶつ多しと雖、その最も殘忍なるものはけだし人なるべし。われ若し富人ならば、われ若し人の廡下ぶかに寄るものならずば、人々の旗色は忽ちにして變ずべきならん。
この斷案に斷案をかさねて出だしたる眞理は、他の哲學者の立脚點より見るときは、却りて又直に根則より出づべきものならむ。哲學者は人の廡下ぶかに倚ること能はざるものなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
これは僕自身の話だが、何かの拍子ひやうしに以前出した短篇集を開いて見ると、何処どこか流行にとらはれてゐる。実を云ふと僕にしても、他人の廡下ぶかには立たぬ位な、一人前いちにんまへ自惚うぬぼれは持たぬではない。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
清常より後の眞志屋の歴史はいよ/\模糊もことして來る。しかし大體を論ずれば眞志屋は既に衰替の期に入つてゐると謂ふことが出來る。眞志屋は自らさゝふることあたはざるがために、人の廡下ぶかつた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)