崖際がけぎわ)” の例文
正勝は崖際がけぎわの一本の幹に自分の身体に巻きつけてある綱の端を結びつけ、紅や黄の落ち葉に埋もれながら谷底へと下りていった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
じめじめした秋の雨が長く続いて、崖際がけぎわの茶のや、玄関わきの長四畳のべとべとする畳触りが、いかにも辛気しんきくさかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「どうする……?」と、そこで、郎党たちの相談だったが、やがて、面倒だとばかり、館の門を出た所の崖際がけぎわから、下へ向って、将門を、抛り捨てた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お城下へもうひと息という阿武隈あぶくま川の岸近くで左右二つに道のわかれるところが厶りまするな、あの崖際がけぎわへさしかかって何心なく道を曲ろうと致しましたところ
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
道が樹のない崖際がけぎわにつづいて鶯の声もしなくなると、今度は清と定雄とが前と後とで竹笛を鳴きかわせて鶯の真似をして歩いた。そのうちに清もいつの間にか上手になって
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
何だ——という顔つきで、孫兵衛はそれを捨てて、またピタピタと林をぬけて行くと、目の前、パッと夕陽が明るくひらけて、かなり高い崖際がけぎわの上へ出た。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、すぐ妹の死体を抱き上げたかと思うと、それを崖際がけぎわへ持っていって、谷底を目がけて投げ込んだ。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それから、番所の前の崖際がけぎわに立って、両方の手で、大きな脇腹を抑えた。屈んでみたり、ってみたり、首を振ってみたりしている。何をやっているつもりか、彼の料簡りょうけんはわからない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)