寂静じゃくじょう)” の例文
旧字:寂靜
「ええ、ありがとう、ですからマグノリアの木は寂静じゃくじょうです。あの花びらは天の山羊やぎちちよりしめやかです。あのかおりは覚者かくしゃたちのとうとを人におくります。」
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
真に寂静じゃくじょうの極だ。明刻のあまり遠近を分たず、ほとんど空間を絶しているかのようだ。見ているうち、何とも言いようのない、ある幽妙な気分に引き込まれてゆく。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
弁信法師は、この小孤島のうちに寂静じゃくじょうを求めて寂静を得ず、人を待たぬはずの身が、人を待つ心に焦燥を感ぜしめられていると、その日中の半ば頃から雨を催してきました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、一歩進むに従って、その音は拡大していって、おしまいには洞窟の中の夜の寂静じゃくじょうのうちに、こだまするまでになった。それは、明らかに岩壁に向って鉄槌を下す音に相違なかった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
毘婆舎那びばしゃな三行さんぎょう寂静じゃくじょう慧剣えけんぎ、四種の悉檀しったんに済度の法音を響かせられたる七十有余の老和尚、骨は俗界の葷羶くんせんを避くるによってつるのごとくにせ、まなこ人世じんせい紛紜ふんうんきて半ばねむれるがごとく
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)