大川口おおかわぐち)” の例文
この石川島はほぼ三角形で、東に石川大隅守おおすみのかみの屋敷、西に佃島つくだじまが、それぞれ堀を隔ててあり、北が大川口おおかわぐち、南には海がひろがっていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは大川口おおかわぐちから真面まとも日本橋区にほんばしくの岸へと吹き付けて来る風をけようがためで、されば水死人のしかばねが風と夕汐ゆうしおとに流れ寄るのはきまって中洲の方の岸である。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
木橋もくきょう相生橋あいおいばしに潮がさしてくると、座敷ごと浮きあがって見えて、この家だけが、新佃島しま全体ででもあるような感じに、庭の芝草までが青んで生々してくる、大川口おおかわぐちの水ぎわに近い家の初夏だった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
江戸時代にさかのぼってこれを見れば元禄九年に永代橋えいたいばしかかって、大渡おおわたしと呼ばれた大川口おおかわぐち渡場わたしばは『江戸鹿子えどかのこ』や『江戸爵えどすずめ』などの古書にその跡を残すばかりとなった。
荷船の帆柱と工場の煙筒のむらがり立った大川口おおかわぐちの光景は、折々西洋の漫画に見るような一種の趣味に照して、このとも案外長くある一派の詩人をよろこばす事が出来るかも知れぬ。