土砂どしゃ)” の例文
二人は人を押しわけて電車へ乗った。雨が土砂どしゃ降りだ。いい気味だ。もっと降れ、もっと降れ、花がみんな散ってしまうといい。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
だ、だ、だッ、と正成、正季以下みな一団に白い土砂どしゃぼこりを揚げて駈けまろんだ。——射程距離からはすぐ脱しえた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猿田が開閉器かいへいきをドーンと、入れると、たちまち起るはげしい爆音、小屋は土砂どしゃに吹きまくられて倒壊とうかいした。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
裏町で一番広大で威張いばっている某富豪ふごうの家の普請ふしんに運ぶ土砂どしゃのトラックの蹂躙じゅうりんめに荒された道路だ、——良民りょうみんの為めに——のいきどおりも幾度か覚えた。だが、恩恵もあるのだ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
(伯耆どのは、人蕩ひとたらしの名人といわるる秀吉から、すっかり甘いお土砂どしゃをかけられて、ほくほく帰られたそうな)
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風が土砂どしゃをふきとばし、博士の襟元えりもとにざらざらとはいって来た。どこかでしょうの音がするようだ。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勘三は、ひどくきっ腹で、二三軒回った新聞社が駄目だったし、雨は土砂どしゃ降りの吹き流しと来てるし、懐は一文なしのからっけつと、朝から御承知のすけで出て来ているのだ。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「だが、一度はお土砂どしゃをかけておかねえと、俺ッちを甘く見損なうッてこともあらあ。どうだい、番人の代るたびにやる、あの手を野郎にも食わせておいちゃあ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出入口のアーチの上からは、ザザーッと、滝のように土砂どしゃが落ちてくるのが見えた。危い。その勢いでは、アーチをくぐった途端に、上からドッと煉瓦の魂が崩れおちてきそうだった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのうちに、足の下が急にかたむいた。ざらざらと土砂どしゃが一方へ走る。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)