もとよ)” の例文
やがて彼等はまた語り出した。それは「今度の事」に就いてゞ有つた。今度の事の何たるかはもとより私の知らぬ所、又知らうとする氣も初めは無かつた。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ようやく安心したとまではもとより行かなかった。自分の鉱山における地位はこれでやっときまった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
応左様ならば我が為ると得たりかしこで引受けては、上人様にも恥かしく第一源太が折角磨いた侠気をとこも其所で廃つて仕舞ふし、汝はもとより虻蜂取らず、智慧の無いにも程のあるもの
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しかし表へ飛び出す訳にも行かず、寝る勇気はなし、と云って、下へ降りて、車座の中へ割り込んで見る元気はもとよりない。さっき毒突どくづかれた事を思い出すと、南京虫よりよっぽどいやだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黙って聞いていると、雨垂あまだれの音もしないようだから、ことによると、雨はもうんだのかも知れない。しかしこの暗さでは、やっぱり降ってると云う方が当るだろう。窓はもとより締め切ってある。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)