唯者ただもの)” の例文
果して、この奇獣は唯者ただものではなかった。やがて、折竹を導いて「冥路の国セル・ミク・シュア」へと引きよせてゆく、運命の無言の使者だったのだ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
老人はそらうそぶいて取り合おうともしない。こいつ油断がならないぞ。ヨボヨボしたおやじだけれど、眼の色が唯者ただものではない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
右にも左にも灯のひかりの無い堀端で、女の着物の染め模様などが判ろう筈がない。幽霊か妖怪か、いずれ唯者ただものではあるまいと私は思った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「燐寸というものが極く普通のものだけにこれを利用した疑問の人物を唯者ただものでないとにらみます」
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
広い都にかの女性にょしょう唯者ただものでないと覚っているものは、この泰親のほかにまだ一人ある。それは少納言の信西入道殿じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雷雨は暁け方にやむと、つづいて女は帰って来たので、彼女がいよいよ唯者ただものでないことを三人はさとった。
乞食とあれば是非もないが、何だか唯者ただものでは無いように市郎は感じた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)