命乞いのちごい)” の例文
公子 よし、その金銀を散らし、施し、棄て、蔵をこぼち、家を焼いて、もとの破蓑やれみの一領、網一具の漁民となって、娘の命乞いのちごいをすれば可かった。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはいお思附おもいつきである。この度の事については、命乞いのちごいの仲裁なら決して聴くまいと決心していたが、晴がましい死様しにざまをさせるには及ばぬというお考は道理至極である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
出家僧侶、宗教家などには、一人位は逆徒の命乞いのちごいする者があって宜いではないか。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
旦那はわしが手引をして殺させました、其の申訳もうしわけの為に私は坊主になって旦那の追善供養を致しますといえば、お内儀様かみさん命乞いのちごいをして命だけは助けて遣るから、一角が殺したと云ってしまえよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
婦が、あの姿を人目にさらされたら、どんな心持だと思います——君にこんな事を云うのは、解剖室で命乞いのちごいをするようなものだが、たとい骨でも、一室ひとまに泊り合わせたのは、免れない縁だと思う。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)