)” の例文
御二人手を御取合で互に涙んでらッした御様子てッたら、私も戦地へお行でなさる兄さんが、急に欲しくなった位でした。
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
その美しい憧憬あこがれの惱みを通して、誹笑の聲が錐のやうにみのるの燃る感情を突き刺してゐた。池の端の灯を眺めながら行くみのるの眼はいつの間にか涙んでゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
「冬子さん、おめでとう! 天野の旦那様によくお礼を申し上げなさいよ、本当に」とさすがにこうした折の悦びも悲哀も味わいつくして来たらしい、涙んだ陽気さで大きく叫ぶのだった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
私は暗い路ばたにしょんぼり佇んで、独り涙んでいたが、ふと人通りの途絶えた向うから車のわだちが聞えて、提灯ちょうちんの火が見えた。こちらへちかづいてくるのを見ると、年の寄った一人の車夫が空俥からくるまを挽いている。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
祖母はまず自分自身の哀れなオールライフを涙ましく思った。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)