反撥心はんぱつしん)” の例文
しかしまた人知れぬ反撥心はんぱつしんもあって、まだ全く絶望しているのではなく、今までの陰鬱な性格に変化が来るようにも思えた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そう思いながらも、いっこうその兄に対する反撥心はんぱつしんの起らぬのが、自分でも不思議でならなかった。彼は心のうちのどこかで兄を是認ぜにんしていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「何と言われたっていじゃないか——そんなことを気にしたところで仕方がない。そういう苦い反撥心はんぱつしんを捨てるサ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勝気な彼女の反撥心はんぱつしんは、この忘れかねる、人間のさいなみにあって、弥更いやさらに、世をるにはまけだましい確固しっかりと持たなければならないと思いしめたであろうと——
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
文学趣味のある彼女は豹一の真赤に染められた頬を見て、この少年は私の反撥心はんぱつしんを憎悪に進む一歩手前で喰い止めるために、しばしば可愛い花火を打ち上げると思った。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
私「そうですね。でも、そういう風に思い詰めるどんづまりに、また反撥心はんぱつしんも起って、お祭騒ぎや、主義や理想も立てくなるんじゃないのですか。どっちも人間の本当のところじゃありませんか。」氏「生死の問題にいてあなたは何う思いますか。」
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何かしら叛逆的はんぎゃくてきな傾向をその性格に植えつけ、育った環境と運命からけ出ようとする反撥心はんぱつしんそそらずにはおかなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
肉体の苦痛をえ忍ばされたあとでは、そうした男に対する反撥心はんぱつしんが、彼女の体中にわきかえって来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
耳元にとどいて来る遠巻きのすべての非難の声が、かえって庸三に反撥心はんぱつしんあおった。彼は恋愛のテクニックには全く無教育であった。若い時分にすらなかった心のたわみにも事かいていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
荷が重くなった途端に、反撥心はんぱつしんが出たというのかしら。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)