千駄せんだ)” の例文
すなわち鉄製の稲扱ならずとも、旧来の一本のコキバシに比べると、是は確かに千把または千駄せんだと誇張するほどの大革命であったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
青山あおやま兵営の裏手より千駄せんだくだる道のほとりにも露草つゆくさ車前草おおばこなぞと打交うちまじりて多く生ず。きたりてよく土を洗ひ茎もろともにほどよくきざみて影干かげぼしにするなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
左官の八は、裏を返して縫ひ直して、つぎの上に継を当てた絆纏はんてんを着て、千駄せんだの停車場わきの坂の下に、改札口からさすあかりを浴びてぼんやり立つてゐた。午後八時頃でもあつたらう。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その折に、もし私に会いたいと思ったら、厩肥きゅうひ千駄せんだ積んでその上に青竹を立て、それに伝わって昇って来いと言ったので、男はその通りにして後から天へ昇って行った。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
寺は青山練兵場れんぺいじょうを横切って兵営の裏手なる千駄せんだの一隅に残っていたが、堂宇は見るかげもなく改築せられ、境内狭しと建てられた貸家かしやに、松は愚か庭らしい閑地あきちさえ見当らなかった。
東京のもとのまわりには西南のはしに千駄せんだ、北に片よって千駄木せんだぎという町があって、ともに聞きなれぬ地名だから人が注意している。千駄ガ谷はもと郊外の農村だった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)