匹儔ひっちゅう)” の例文
小酒井不木氏の探偵小説は、専門の智識を根底とし、そこへ鋭い観察眼を加え、凄惨酷烈の味を出した点で、に殆ど匹儔ひっちゅうを見ない。
大衆物寸観 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また紅葉の人生観照や性格描写を凡近浅薄とけなしながらもその文章を古今に匹儔ひっちゅうなき名文であると激賞して常に反覆細読していた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
アメリカの金に飽かして編制された一、二のものを除いて、全く匹儔ひっちゅうを見ないことは、常識的に知られたことである。
芝鶴を評して、その多能なる点は現時俳優中に匹儔ひっちゅう少しといひしが、この多能は年枝のいはゆる数でこなすといふ事ならばいざ知らず、普通の意味にては受取難し。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
足利時代はその太平恬熈てんきの点において、むろん徳川時代に匹儔ひっちゅうし得べきものではないが、しかしはたして藤原時代よりも秩序がはなはだしく紊乱しておったであろうか。
ヘレニズムよりルネッサンスに至るまでの欧州に全然その匹儔ひっちゅうを見ないほどの傑作だと言われているが、自然と人間とを超越しようと企てるインド風の生活を題材としているにかかわらず
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
もとより晩年には二人とも、外国にも匹儔ひっちゅうを見ないほどのユニックな学者となって居て、毛利先生は、先生の所謂いわゆる「脳質学派」を代表し、狩尾博士は博士の所謂「体液学派」を代表して居た。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
眉山の美貌は硯友社に限らず、文壇に限らず、美男の畑なる役者の中を尋ねても決して数多くの匹儔ひっちゅうを見出しがたいだろう。
当時今川義元と云えば駿遠参の大管領で匹儔ひっちゅうのない武将であったが、信虎の一女を貰っていたので晴信にとっては姉婿に当たり日頃から二人は仲がよかった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
五人ながら江戸の一流、わけても丸橋柴田ときては、匹儔ひっちゅうのない名人だ。一人と一人立ち合ってもこっちには、微塵みじん勝ち目はない。それが五人に掛かられたんだからなあ。よくそれでも闘ったものだ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ハイ、さようにございます。お殿様には先祖代々、お船手頭でございまして、その方面の智識にかけては、他に匹儔ひっちゅうがございませぬ筈、つきましては赤格子九郎右衛門が、乗り廻したところの海賊船の、構造ご存知ではございますまいか?」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)