匂袋においぶくろ)” の例文
「ああ、分った! 匂袋においぶくろだ」、と図星を言ったつもりでいうと、雪江さんは吃驚びっくりして、「まあ、可厭いやだ! 匂袋においぶくろだなんぞッて……其様そんな物は編物にゃなくッてよ。」匂袋においぶくろでもないとすると
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
煉香、匂袋においぶくろと試した。すると最後に取りあげたのは、つい、この四五日前、芝神明しんめいのセムシ喜左衛門の店で売りだした法朗西ふらんす渡りのオーデコロンをもとにして作った『菊香水』という匂水。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
どの船からという事もなく幽暗なる半月はんげつの光に漂い聞ゆる男女が私語ささやきの声は、折々向河岸むこうがしなるしいの木屋敷の塀外へいそとからかすかに夜駕籠よかごの掛声を吹送って来る川風に得もいわれぬ匂袋においぶくろを伴わせ
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある三十男は気が変になって、いつも赤いハンケチを持ち、匂袋においぶくろをさげて綾之助の後をついて歩いた。その人はいつも五行本の書風に真似まね、文句も浄るりぶしの手紙を、半年のうちに百数十通おくった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)