動悸ときめき)” の例文
かつて知らない動悸ときめきに、血が熱くなった。けれどそれは、地上から鞍の上まで、彼女の身を移すわずかな間でしかなかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、客の伊勢守を想像しながら、出迎えのため、彼方へ足早に歩いてゆく間も、何か少年じみた動悸ときめきさえ抱いていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小粋こいき細格子ほそごうしの中をのぞいたが、庄次郎は、ひるんでしまって、少年の動悸ときめきに似たものが、顔へ、のぼってきた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野葡萄のぶどうのような眸は、これを男に濡れさせてみたくなるばかりな蠱惑こわくをひそめ、なにかにかわいているらしい唇がその口紅を黒ずませて烈しい動悸ときめきに耐えている。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の顔を見るのもまばゆそうに、動悸ときめきを抑えて、じっとそこに固くなっていると、自分もともに処女心おとめごころに返って、相手の者と同じような初心うぶ動悸ときめきを覚えるのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう戦慄と、異性へ動悸ときめきと、ふたつの血の音が、沈黙の底を、こもごもに駆けていた。そのふたりの間に、牡丹ぼたんの火はあくまで燃えつづけているのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木枕や臥床ふしどを、とまの隅へ押しやって、えりをあわせたり帯の結びを直したりした。恋を覚えそめた十七、八の年頃の動悸ときめきも、今の動悸ときめきも、彼女には少しも変って来たふうがない。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
林冲も、ちょっと怪しみ、妻もなにか動悸ときめきを感じたが、しかし、殿帥府副官の名では、公式な召しも同様で応じぬわけにもゆかない。もしまた、文面の通りなら光栄とも考えられる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とふッさりした黒髪が新九郎の動悸ときめきつかるように投げられた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)