労咳ろうがい)” の例文
旧字:勞咳
三軒たずねて断わられ、四軒めに佐野正さのしょうからの口添えで、駒形町こまがたまち和泉杏順いずみきょうじゅんという医者が来て呉れた。診断は労咳ろうがいということだった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「可哀そうな病人でございます。癩病らいびょう脱疽だっそ労咳ろうがいかく、到底なおる見込みのない病人達でございます」これが松虫の返辞であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まだよいのうちじゃったがな。もう長いこと労咳ろうがいでわしがめんどうみていた無宿者の老人が、急にゆうべ変が来たというて呼び迎いに参ったのでな。
兄も……弟も労咳ろうがいで臥せっておりまする中にタッタ一人のわたくしが……いささか小太刀の心得が御座いますのを……よすがに致しまして、偽りの願書を差出しました。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いや、あれは仮病や偽患にせわずらいではない。どんな辛抱の良い人間でも、一年も仮病をつづけられるものじゃない。それに、あれは労咳ろうがいもよっぽど重い方らしいじゃないか」
「このままではいかん、このままこの者にこうしたコツコツと身体を動かさずやる仕事をさせておいたなら間違いなく労咳ろうがいになる。そうして死ぬ、現にこれこの通り労咳のトバ口、血を吐いていおる」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ただ、いかにも栄養が悪く、——これは弟や妹も同様であるが、このままでゆくと労咳ろうがいになる危険が多分にあると思えた。
「愚老はせがれへ試みてござる。次男冬次郎労咳ろうがいを患い、頼みすくなく見えましたので、早速一粒を投じましたところ……」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「たいそう立派な口をお利きだねえ正さん。労咳ろうがい病みの薬料から其の日其の日のおまんま、いったい誰のお蔭で口へ入るのかおまえ知っておいでかえ」
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
労咳ろうがいでしょ、医者はそう云わないけれど、あたしにはわかっているんです」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それもおそらく労咳ろうがいであろうと、登はまえから推察していた。
「私どももそうとばかり思っておりましたところ、それがみな嘘で、源太とは縁もゆかりもなく、水戸の店というのも、商人と申すのも嘘で、まことは武士らしく、そのうえ病気は労咳ろうがいということでございます」
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)