出会でくは)” の例文
旧字:出會
亭主といふものは、女房かないを里帰りさせるか、それとも自分が遠くへ旅立でもしなければ、滅多に女房かないの手紙を読む機会に出会でくはさない。
野道でたま/\赤い爪をり上げた蟹にでも出会でくはすと、兵庫頭はぶるぶるふるへて、いきなり馬を引き返して逃げ出したものださうだ。
被告の身にとつては人のい、福々ふく/″\した、朝餐あさめしうまく食べた裁判官に出会でくはすといふ事が大切だいじだが、原告になつてみると、平常いつも不満足たらしい
造船所の掛員は、葬式とむらひの帰りに、一度こんなお辞儀に出会でくはして以来このかた久し振の事なので、ひどく度胆を抜かれてしまつた。
独帝カイゼルには妙な癖がある。それは何か困つた事に出会でくはすと直ぐ自分の耳朶みゝたぶを引張らずには居られないといふ事だ。
それを拾ひ読みしてゐた或る日本通の西洋人は、そのなかに「花のやうに美しい女流作家」と書いてあつた文句に出会でくはすと、も一度叮嚀に写真版に見入つた。
ヴアン・ダイク博士はそれを聞くと、僂麻質斯リウマチスかゝつたやうに痛さうに顔をしかめた。教壇の下では校長が火事に出会でくはしたやうに真つ赤になつてふるへてゐた。
「まるで本ばかり読んでゐる男のやうに思つてると見えて、よくそんな質問に出会でくはしますがね……」
たまには見る/\先達せんだちの唇が腫上はれあがるやうな毒草にも出会でくはしたが、仲間は滅多に閉口しなかつた。
例のドレエフス事件の折などは、自分も進んでその関係者の一にんとなつただけに、新聞記者につかまつて、大袈裟に畳み掛けた質問にでも出会でくはしはしなからうかと怯々びく/\ものでゐた。
「まあ、よかつた。一年振りにまたこんないい時候に出会でくはすことができて……」
春の賦 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)