内奥ないおう)” の例文
馬子、蝦夷えみし入鹿いるか等の兇暴を国家のために黙視されなかったとはいえ、彼らの内奥ないおうよりの「和」をまず祈念されたのは当然でなかろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
山猫拝やまねこはいと書いたおかしな葉書はがきが来たので、こどもが山の風の中へ出かけて行くはなし。かなら比較ひかくをされなければならないいまの学童がくどうたちの内奥ないおうからの反響はんきょうです。
およそ芸術が普遍人間的な内奥ないおうの生命を有する限り、国民性に起因する趣味のごときは、一種の薬味たるに過ぎないであろう。それはむしろ異国情調として浪漫的な熱望を刺激するのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
人間としての矜持きょうじか、此処には最早もはや矜持とか自律とかはあり得ない。あるのは生きているか殺されるかという冷たい事実だけだ。善とか悪はない。真実とは一つしかないのだ。それは内奥ないおうの声だ。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
何故かくも信仰が深かったのだろうか——。上宮太子じょうぐうたいし義疏ぎしょのごとく、仏教について内奥ないおうの思念を直接語られたような文書はもとより伝わっていない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
換言すれば彼が生存のとき、果さんとして果しえなかった内奥ないおうの願、祈念、これを死が明確に語ってくれるのである。灰燼と絶滅から人間の生命は久遠くおんとなるであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)