八端はったん)” の例文
私は、八端はったんの黒い風呂敷を持って、まちへ牛肉を買いに行き、歩きながら、いろいろ考えごとをしていて、ふと気がつくと、風呂敷が無い。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「寒くなるから……」と云って、八端はったんのドテラをかたみに置いて俊ちゃんは東京をたってしまった。私は朝から何も食べない。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
小袖は二枚で、一枚は白綾しろあや、一枚は八端はったん、それに血のあとが残っていると云いますから、恐らく吉良が最期さいごのときに身につけていたものでしょう。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
河岸かしのそろいの浴衣に八端はったんの三尺、脚絆がけ、手に菅笠をもったそのときのかれのいでたちであった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
八端はったんのどてらにその醜悪な肉体を包みながら、いかさま上方くだりの絹あきんどといったふうに化け込んで、当のその八つ化け仙次がやにさがっていたものでしたから
八端はったんのねんねこを引っかけて、曲彔きょくろくによりかかり、高脚コップのお酒を飲みながら腕を裂かれていた。
私は厚い八端はったん座蒲団ざぶとんの上にともかくも坐って、女中の静かにんで出した暖かい茶をんでから、さっき女と電話で約束した会合の場所が、そこからすぐ近いところなので
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
八端はったんの寝巻きに、小帯を前にむすんだ惣七である。よく見えない眼をこすって、縁の障子をあけた。日光が、待ちかまえていたように、音をたてて飛びこむ。微風が、ねまきのすそをなめた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
闇太郎は八端はったんがらの、あまり大きくない座布団を、雪之丞のために進めた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ラクダのくび巻きをして、外国人のような高い鼻をもった大きな人だったが、家にいる時は冬は糸織のねんねこを着、夏は八端はったんの平ぐけを締めて、あんまり話はしないが細かく気のつく人だった。