八百松やおまつ)” の例文
漆の如きやみうちに貫一の書斎の枕時計は十時を打ちぬ。彼は午後四時より向島むこうじま八百松やおまつに新年会ありとていまかへらざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その頃、銀座さんととなうる化粧問屋の大尽だいじんがあって、あらたに、「仙牡丹せんぼたん」という白粉おしろいを製し、これが大当りに当った、祝と披露を、枕橋まくらばし八百松やおまつで催した事がある。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
只今は八百松やおまつという上等の料理屋が出来ましたが、其の時分あの辺は嬉しの森と云いまして、樹木の生茂おいしげりて薄暗うすくろうございまする。枕橋まくらばしへかゝると吾妻橋が一目に見えまする。
『冬柏』第七号の消息中に、月夜の村芝居、向島奥の八百松やおまつに催した百選会の帰るさに、月の隅田川を船にて帰られたくだりを拝読して、今より五十年余り昔の事を思いでました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
八百松やおまつから言問ことゝい艇庫ていこの辺へ暖かそうな霞がかゝり、対岸の小松宮御別邸を始め、橋場、今戸、花川戸の街々まで、もや/\とした藍色の光りの中に眠って、其の後には公園の十二階が
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それから十日ほどのち、向島むこうじま八百松やおまつの奥座敷。顎十郎と藤波のふたり。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
下金屋は本所枕橋まくらばしきわ八百松やおまつから右へ曲がった川添いの所にあった。