入陽いりひ)” の例文
巳之助は人力車のながえにつながれた綱を肩にかついで、夏の入陽いりひのじりじり照りつける道を、えいやえいやと走った。れないこととてたいそう苦しかった。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
江戸の入陽いりひは、大都会の塵埃じんあいに照り映えて、あかねいろがむらさきに見える。とびにでも追われているのであろう、空一めんに烏のむれが、高く低く群れ飛んでいた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あなあはれ、榧と栗の木、落葉する栗も寒けど、常青く立てる榧の木、冬の日はことに高しよ。栗の木はいよよ透けれど、榧の木はいよよか黒く、薄日射函根の入陽いりひけてひとりとがれり。
いいえ、あかあかと入陽いりひがさしています。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
栗の木はいよよ透けれど、榧の木はいよよか黒く、薄日射函根の入陽いりひけてひとり尖れり、いや黒くひとり堪へたり。雨まじり霙ふる日も、風まじり雪の飛ぶ夜も、こごしくもこごえ立ちたり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)