傷々いた/\)” の例文
くちばしで掻き乱したものか細かい胸毛が立つて居り、泊り木に巻きついてゐる繊細かぼそい足先には有りつ丈けの力が傷々いた/\しく示されてゐる。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
丁度膝頭のあたりからふくらはぎへかけて、血管が青く透いて見える薄い柔かい肌の上を、紫の斑点がぼかしたように傷々いた/\しく濁染にじんでいる。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
生れて直ぐ母に分れてから今日までの父の苦労を思ふと傷々いた/\しくて堪らぬ程であつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
白い繃帶の鉢卷した頭に兵隊帽を阿彌陀あみだに冠つた子供の傷々いた/\しい通學姿が眼の前に浮かんで來ると、手古摺らす彼女からは自然と手を引いてひそかに圭一郎は涙を呑むのであつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あの傷々いた/\しい、骸骨がいこつのようにせた老翁が、たま/\若い美しい妻をち得て、後生大事にその人にかしずき、それに満足しきっているらしい様子を見ては
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「まあ、お濡れになつたのね」と眉根に深い皺を刻んで傷々いた/\しげに言つた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)