信濃路しなのじ)” の例文
「早えものさ。三年は三年でもおれとおめえが、あの田川たがわの娘芝居に一座して、信濃路しなのじを打ってまわったころとは世の中も変わったぜ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
古多こたの浜からは、路は南へかかる。裏日本を背にして、次第に信濃路しなのじへ入ってゆくのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この十一月初旬、この遺稿の整理をしにった別所温泉は、信濃路しなのじは冬の訪れるのが早いのでもう荒涼たる色が野山に満ちて、部屋の中にいても落葉の降る音が雨のように聴えた。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なまよみの甲斐かいの国、山梨やまなしあがたを過ぎて、信濃路しなのじに巡りいでまし、諏訪すわのうみを見渡したまひ、松本の深志ふかしの里に、大御輿おおみこしめぐらしたまひ、真木まき立つ木曾のみ山路、岩が根のこごしき道を
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信濃路しなのじの小さな田舎でだったよ。おれはその頃将監さんに仕込まれた咽喉でもって旅芸人を稼いでいたのだ。柏原という村へ来て、くたびれ休めにそこにあった小屋の縁側に腰をかけたものだ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
ここは木曾路をへてくる上方かみがたの客、信濃路しなのじからくる善光寺帰りの旅人、和田峠をこえて江戸の方角から辿たどりつく旅人などが、一せきあかを洗うべく温泉をたのしみに必ずわらじを脱ぐので
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)